コラムカテゴリー:業界動向
2019年、民法が120年ぶりに改正されます。(2017年1月4日現在の見込み)
既にご存知の方も多くいらっしゃる一方で、始めて耳にする方も多いのではないでしょうか。
そして、なぜ民法の話題・・・ と疑問を持たれる方も多いことと思います。
実は今回の民法改正においては、IT業界に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。
民法改正の施行時期
今回の民法改正案は2015年に既に通常国会で審議されており、本年(2017年)度の国会で可決されれば2019年頃に施行される見込みです。
IT業界への影響のうち、今回とりあげるテーマ = 瑕疵担保責任
※民法改正によるIT業界への影響は少なくないため、今回はテーマを絞って解説いたします。
※民法改正の全容については、各メディアに法律家等の専門家の解説が掲載されていますので、そちらを参考にしてください。
民法改正内容の中で、IT業界はシステム開発委託契約が大きく変わるといわれています。
ITに関わる仕事をしている皆さまであればご存知のとおり、企業がシステム開発を外部のベンダーに依頼する際には、大きくわけて
・請負契約
・準委任契約
(派遣契約もありますが、今回は割愛します)
という契約形態が存在します。
今回は主に、
・請負契約
における、「瑕疵担保責任」をテーマとします。
「瑕疵担保責任」とは
従来の民法では「瑕疵担保責任」は「無過失責任」とされています。瑕疵が生じたことについて請負人に非がなくても、瑕疵を修正したり損害賠償を支払うといった責任を負います。
もう少し噛み砕いて説明すると、
「システム開発会社は請負契約で開発した業務システムにおいて、システムの納品後だとしても不具合が見つかれば、無償で修正するする必要がある」
ということです。
その期間は、個別契約で定めがなければ、民法上は1年以内の定めとなっています。
発注者側にしてみれば当然の権利な一方で、受注者(システム開発会社)側としては泣かされた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
民法改正後「瑕疵担保責任」はどう変わるのか
改正案では瑕疵や担保という言葉は使われないようです。
契約で定めた内容に適していないという意味で「契約不適合」という言葉が使われるようになります。「契約不適合」とは、「未完成である」「重大なバグがある」と読み替えて良いでしょう。
「契約不適合」という表現に変わるだけではなく、内容も大きく2つの変更があります。
<変更点1> 賠償請求の起算点の変更
従来の民法では、成果物の引渡し後、1年以内でなければ不具合を発見しても無償の修正を請求できませんでした。
改正案では、「不具合が有る事実を知ったときから1年間」となります。
上限は引渡しから最大5年以内ではあるものの、賠償請求ができる期間が大幅に延長されるのです。
<変更点2> 代金減額請求権の追加
「契約不適合」の成果物に対して、受注者により追加で修正がなされない場合に、不具合の大きさに応じて受注者側に支払代金の減額を請求できる権利です。
・不具合の修正を他社に依頼した場合
・発注者の社内で修正した場合
に、その費用分を減額することができる権利です。
IT業界の大きな転換点になり得る
上述したように「瑕疵担保責任」、民法改正後は「契約不適合」の定義が大きく変化することにより、IT業界は大きなインパクトを受ける可能性があります。
今回の改正案に準じた契約により、システム開発会社がシステム開発を請け負う場合、今後はより高い品質のシステムを納品する必要があります。そのため、システム開発における費用が高額になっていくことが予想されます。
ただでさえ発注者にとって負担の大きいシステム開発費用が、更に高額化していくことにより、発注者側も考えを変える企業が増加するのではないでしょうか。
ここ数年、民法改正に関わらずコスト削減や効率的・効果的なシステム開発を目指して内製化に舵を取る企業の事例が、数多く発表されています。民法改正を機に、「システム内製化」を目指す企業は、より一層増加する可能性が高いと推察しています。
近年、「超高速開発ツール」「ノンプログラミングツール」といったキーワードを目にしたり、実際に活用する機会も増えてきました。これらのツールも、「システム内製化」の助けになっていくでしょう。
一方、システム開発会社も様々な手を打ってくることが予想されます。
具体的には、以下のような方向に進む企業が増加すると推察しています。
・パッケージ化されたシステムをクラウドサービスとして提供していく
(企業ごとの独自システムの開発を減らしていく)
・「超高速開発ツール」を活用して、生産効率を向上していく
・「システム内製化」をしている企業にリソース補完(派遣等)をしていく
民法改正がもたらすIT業界へのインパクト、ご理解頂けたでしょうか。
実際には、各社間で締結する個別契約の内容が優先されますので、業界全体を揺るがすほどの影響はないかもしれません。
しかし、発注者側、受注者側とも、今後の戦略を立案する上での大きなテーマになることは間違いありません。
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2017年01月15日 (日)
青山システムコンサルティング株式会社