2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。
コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。
P.222~
第4章
「To Beモデル」のシステム構築&改修で、業務効率・収益力を向上させる
ユーザー企業に見るITシステムへの無理解
私どもの会社が依頼を受けたのはA社からです。ですから、私どもの会社はあくまでもA社の代理人(エージェント)として、この問題の解決に取り組みました。
そして、資料の調査や双方へのヒアリングを行い、A社の立場からは、次のような問題があることがわかりました。
(1)システム障害に気づかず被害が拡大するリスクが高い
サーバー等で障害が発生しているにもかかわらず、気がつかずに対応が遅れ、影響が拡大するリスクがありました。
(2)システム障害時に迅速な復旧が困難であり、復旧できない可能性もある
システムのバックアップ方法や運用体制が不十分なため、障害発生時に迅速なデータの復旧が困難な状況と言えました。
また、障害発生時点のデータに復旧できなかったり、そもそもデータの復旧ができなかったりする可能性もありました。
(3)システム停止のリスクが高い
受注や出荷の管理がシステムに依存しているにもかかわらず、システムの停止リスクが高いシステム構成になっていました。
(4) セキュリティレベルにバラつきがあり情報漏えいリスクがある
多くの個人情報を保有していますが、セキュリティ対策レベルがシステムごとに異なりました。
セキュリティレベルは決して高いとは言えず、情報漏えいのリスクがありました。
これだけを見れば、システム・ベンダーであるB社に非があるように見えますが、そうとも言い切れない部分があります。ユーザーであるA社にも改善すべき点はいくつもあるように見えました。
まず、B社の能力(キャパシティ)の問題があります。
B社は決していいかげんな会社ではありません。むしろ、かなり誠実に地道に努力している会社だと言えるでしょう。創業したばかりのA社が、安価な値段でシステムを一から作ってもらって、以来、10年間サポートしてもらっているわけですから、むしろ信頼のおける企業だと思います。
とはいえ、誰もが名前を知っている超一流企業というわけでもありません。トヨタやソニーがぜひ仕事を依頼したいと思うような企業でもありません。どちらかといえば、中小企業向けに一生懸命ビジネスをしているシステム・ベンダーの一つです。
A社もB社も社員数や企業規模としては似たようなものですから、取引相手としては決して間違ってはいないのです。一般的には、身の丈にあった良い取引先と言えるでしょう。
しかし、A社にはITシステムの相場観がないために、一度不信感が芽生えた後は「騙されているのではないか」「他のベンダーのほうがサービスがよいのではないか」と疑心暗鬼に陥っていました。そんなA社の態度を見て、B社にも不信感が醸成されてきていたようです。
A社の要求は「なんとなく速度が遅い」とか「もっと使いやすくしてほしい」などと、感覚的な言葉が多く、B社の担当者の悩みの種となっていました。
すでに述べたように、エンジニアは要求がロジカルでないと、なかなかプログラムに落とし込むことができません。
たとえば「何のデータも入れていない初期段階のテストで、1秒以内に画面遷移してほしい」と言われれば、できるかどうかは明確になりますが、インターネットの環境やお客様の数に依存する環境で「スピードが遅い」などと言われても「それは自分たちの責任ではない」などと感じてしまうのです。
専門的に言えば、A社は「要件定義」ができていませんでした。
もちろん、ITに関しては素人であるユーザー企業のA社に、細かい「要件定義」ができるわけではないので、相手の「要求」を丁寧にヒアリングして「要件」に落とし込んでいくのはベンダーであるB社の責任です。しかし、B社が悪いとだけ言い募るのも生産的ではありません。
たしかに「ベンダーのヒアリングが上手ではない」と文句を言うことは、ユーザーとして正当な言い分かもしれませんが、同じプロジェクトに携わる者として、それだけでは話が先に進みません。こちらから歩み寄らなければ、相手も歩み寄ってはくれないでしょう。
問題を解決し、プロジェクトのスピードアップをはかるためには、ベンダー側が努力するだけでなく、ユーザー側にも相応の協力が必要です。
私どもの会社は、ユーザー企業であるA社の代理人として、A社の「要件定義」を行い、B社に伝える役割を担いました。それと同時にA社の問題点も指摘して、両者の関係の修復にも尽力しました。さらに並行してB社のシステムを検収し、何が問題で、どうすれば解決できるのかも調査しました。
ITコンサルタントのコメント(2023年4月18日)
本記事の事例は、ユーザー企業の無理解によるコミュニケーション不足が原因で起きるもので、高いお金を払って専門家(システム開発会社)に依頼しているのだからちゃんとしたものができるはずだという誤解から生まれるものです。例え専門家であっても、ユーザー企業の協力なしには原理的に無理があります。ちょっと例を挙げてみようと思います。
例えば、自分のライフスタイルに合った注文住宅を建てようと考え、建設会社に依頼することを考えます。この時、注文する側が「自分のライフスタイル」を明確に言語化できず、ゆえにどういった機能があれば足りるのかが曖昧で、さらにそれらをどの様に使うのかも曖昧だとしたとき、ただ単に「土間がある家が良いんですよね」とだけ伝えて、いい感じにしてほしいと依頼したとした場合、はたして良い家が建つでしょうか?しかも資金も潤沢にある訳ではなく、希望を全て叶える事ができない場合、建設会社が「一般的に良く取られる選択」を元に機能を取捨選択して建った家は「自分のライフスタイルにあった家」になるでしょうか?
建設会社は建設の専門家ではありますが、必ずしもヒアリングの専門家ではありません。また、仮にヒアリングの専門家がいたとしても、注文する側の相応の協力がないことには原理的に良いものができないのはこの例からも明らかでしょう。作って、使うのはユーザー企業に他なりません。自宅を作るくらいの強い思いで取り組む必要があります。
ただ、自身の希望の把握や、機能への落とし込みはそれだけで専門性が必要な難しい作業です。ベンダー側に十分なスキルが無いようであれば、当社のようなITコンサルタントを利用するのも良い手段です。