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コロナ禍により、日本のデジタル化の遅れが露わになりました。2020年の国連の世界電子政府ランキングにおいて日本は14位。悪くないようにも思えますが、残念なことに前回2018年の10位からランクダウンしています。上位3か国はデンマーク、韓国、エストニアです。なるほど、お隣韓国ではデジタル化のおかげもあり給付金の支給が速やかに行われました。
電子国家
上位3か国の中でもエストニアはデジタル先進国として注目を集めており、電子国家・電子政府と言われるほどです。デジタル化で日本の10年先を進むとも言われていますが、いったいどのようなことになっているのでしょうか。今後日本がデジタル化を推進する上で良いヒントがありそうです。覗いてみましょう。
電子身分証明書
エストニアでは15歳以上の国民に電子身分証明書の保持を義務付けており、ほとんどの国民が所有しています。日本のマイナンバーカードのようなものですが、日本の普及率は20%以下ですから大きな違いです。
2002年の電子身分証明書の発行当時は批判も多かったそうですが、年々機能が追加され利便性が上がり、国民に受け入れられるようになりました。その役割は運転免許証、健康保険証、交通系ICカード、銀行カード等と多岐に渡ります。これは便利ですね。これなら財布も薄くて済みます(笑) その代わり、落としてしまったらとても面倒そうです。
余談ですが、駅には自動改札がなく、電車に乗ると、なんと車掌が電子身分証明書をチェックしにくるそうです。これは人口が少ないエストニアだからできる方式だと思います。日本の都市ではとても無理ですね。
行政サービス
エストニアでは行政サービスの99%が電子化されており、オンラインで手続きが完結します。
例えば引っ越しの際、日本では転出届、転入届だけではなく、電力、ガス、水道、通信、金融機関など各種公共機関の手続きが必要となり、それを考えるだけで引っ越しが憂鬱になります。それに比べて、エストニアの場合はオンラインで住所を変更するだけで、基本的な手続きは終わります。
子供が生まれた際も同様で、日本では複雑な手続きが必要ですが、エストニアでは病院側がシステムに出生登録するようになっており、親は後から名前の登録をするだけで手続きは完了、子育てに必要な各種支援が受けられます。
選挙についても、エストニアは世界初の国政選挙での電子投票を導入しています。流石に直ぐには受け入れられなかったようですが、電子投票の割合は徐々に増えており、現在は全体の40%ほど。現在のコロナ禍では投票のためとはいえ人々が密になる状況は出来るだけ避けたいところです。電子投票の割合は更に上がるのではないでしょうか。
なお、結婚、離婚、不動産売買の手続きはオンラインではできません。これらは慎重な判断を要するとのことで、あえてリアルな手続きとしているそうです。面白いですね。
個人情報管理
上記のような仕組みは、国が国民の情報を一元管理しているため成り立っています。そのデータが不正利用されたり、改ざんや漏えいしてしまうことは無いかと心配になりますが、そのようなリスクを無くすための仕組みが構築されています。
行政のデータベースにはタイムスタンプがあり、どのような更新も履歴が残ります。データをルールや善意で守るのではなく、それをさせない技術で守っています。
また、個人情報は基本的に本人しか見れません。医者、警察などは一部の情報を参照する権限を持っていますが、アクセスした場合は本人にその旨が通知されるようになっています。それに対して、どのような目的でアクセスした問い合わせることも出来ます。
終わりに
エストニアのデジタル化の目的の一つは国家の存続です。かつてエストニアは何度も他国に侵略されており、今も隣国からの侵攻に対して大きな危機感を持っています。
エストニアはルクセンブルクにデータ大使館を持っており、そこに国・国民のあらゆるデータをバックアップしています。デジタルの継続性を確保し、必要な時に国外からシステムを起動したりデータを取り出せることを目的としているそうです。
仮に領土が奪われ国民が散り散りになるようなことがあっても、デジタルを基盤に国家・国民を存続、再興させる。そういった目的があるのです。
日本のデジタル化は何を目的とするのでしょうか。闇雲に予算を浪費することなく、デジタル化によってどのような社会を目指すのか、国民参加で議論をしながら進められるとよいと感じました。
2020年10月21日 (水)
青山システムコンサルティング株式会社
山口 晃司