多くの企業がITシステムを使いこなせていない

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2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。

コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。


P.12~ 

第1章 ソフト更新、業務フロー変更 ── 絶え間なく見直しを迫られる社内システム

多くの企業がITシステムを使いこなせていない

もし、パソコンがなかったら私たちはどのように仕事を行っているでしょうか。
60代以上の方は、会社にパソコンのなかった時代を覚えているかもしれません。
書類のほとんどが手書きで作成されていたため、きれいな字を書くことが社会人としてのマナーでした。

経理や技術部門の計算は電卓で行われていましたが、電卓が普及する前は算盤と計算尺が使われていました。計算尺など、今の若い人は見たこともないでしょう。
パソコンがビジネスシーンに普及したのは、80年代からです。とはいえ、社員の一人ひとりにパソコンが支給されるようになる以前からも、企業は大型コンピュータをビジネスに利用してきました。

日本で最初の商用コンピュータは、1955年に東京証券取引所と野村證券が導入したUNIVAC120だと言われています。証券取引のように、大量の計算を迅速かつ正確に行わねばならないビジネスには、コンピュータの能力が最適だったからでしょう。 60年代になると、大手の銀行や製造業などの企業も、コンピュータを使うようになりました。といっても、当時のコンピュータは専用のコンピュータ室と専門のオペレーターを必要とするような巨大なもので、入出力はパンチテープ(穴をあけたテープ)やパンチカード(穴をあけた紙)で行っていました。

そのコンピュータで何を行っていたのかといえば、主に給与計算、会計記帳、売上集計などの、いわゆる基幹系業務です。それまでは手作業で行っていたこれらの経理計算をコンピュータで行うことで、事務処理の効率化がはかられるようになりました。

そのため、当時のコンピュータはEDPM(Electronic Data Processing Machine:電子データ処理マシーン)、もしくはそれらがつながったEDPS(Electronic Data Processing System:電子データ処理システム)と呼ばれました。

このようなコンピュータの利用は、現在でも基本的には同じものです。正確に迅速な計算のできるコンピュータに、それまで人間が行っていた単純作業を代替させることで、業務の大幅な効率化が見込めるようになったのです。現在、ITシステム、もしくは単にシステムと呼ばれているもののほとんどは、EDPSの延長線上にあります。一方で、新時代を象徴する技術であり、高額なコンピュータは、会社にとって富と権力の象徴でもありました。草創期に大型コンピュータを導入した日本の企業は、本社の中にガラス張りのコンピュータ室を作り、白衣を着た技術者が作業する様子を見学させたりテレビで放映させたりしたと言われています。

コンピュータは実務の道具であると同時に、広告塔でもあったのです。最新の高価なシステムを導入することは流行にもなりました。

1990年代後半に、ERP(Enterprise Resource Planning)システム(統合基幹業務システム)のパッケージ導入がブームになったことがありました。先導したのはドイツの大手システム・ベンダーであるSAP(Systems, Applications and Products in Data Processing)とアメリカのオラクルでした。

当時の出版業界を見ると、1997年から1998年の2年間に、以下のような勇ましいタイトルの書籍が十数冊も出版されていたことがわかります。
『図解ERP入門―情報革命児ERPが日本的経営を変える』(日本能率協会マネジメントセンター、1997)『ERP経営革命―究極の生産性向上戦略』(ダイヤモンド社、1998)

『ERP・サプライチェーン成功の法則―経営改革の強力な武器』(工業調査会、1998)『SAP革命―財務会計から生産・販売・人事管理まであらゆる業務を変革する新しい情報技術』(日本能率協会マネジメントセンター、1997)

ところが、この何億円もするようなERPシステムを十分に使いこなせた日本企業は、ほとんどなかったと言われています。あまり自社の失敗をオープンにしたがる企業は多くないですから、おおっぴらには言われていませんが、当時、ERPシステムの導入で投資金額以上の価値を生み出せた企業はゼロと言ってもいいでしょう。

業務効率を高める新しい武器だと思っていっせいに飛びついてみたものの、難しくて使いこなせなかったという例は、実はITシステムにおいてはよくあることなのです。

ITコンサルタントのコメント(2021年11月16日)

「多くの企業がITシステムを使いこなせていない」
という点は、未だ大きくは変わっていないように思います。

最後に書かれている、
「業務効率を高める新しい武器だと思っていっせいに飛びついてみたものの、難しくて使いこなせなかったという例は、実はITシステムにおいてはよくあることなのです。」
というのは、昨今でも多々見受けられます。

具体的には、BI(ビジネス・インテリジェンス)、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、AI(人工知能) などが身近でしょうか。もちろん、これらを使いこなせている企業も少なくはありませんが、少なからず「使いこなせなかった」という企業も存在するのは確かです。

いつの時代も、「ITシステムを使いこなす」ことがいかに難しいことであると、あらためて思います。今後、デジタルネイティブな世代など、IT・システムのリテラシーが高い世代が増えてくることで、「ITシステムを使いこなす」ことは比較的容易になる可能性はありますが、これからも重要なテーマであることは間違いないでしょう。


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