2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。
コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。
P.15~
第1章 ソフト更新、業務フロー変更 ── 絶え間なく見直しを迫られる社内システム
役に立たないシステムが「不良資産」と化す
なぜ、使いこなすことができないITシステムを導入してしまうのか、と問われれば、その答えは、人間の性(さが)とでもなるでしょうか。
私たちは、それほど必要性を感じていなくても「世間で大流行!」と聞けば試してみたくなるものですし、「ライバル企業が買った」と言われれば、買いたくなってしまうものです。
また、ITシステムを販売する側もビジネスですから、「このシステムによって御社の課題が解決します」とか「今導入しないとこの先の競争に負けてしまいます」などと、煽りがちです。
とはいえ、ITシステムの導入はかなり高額の設備投資になります。100万円や200万円の投資金額であれば、失敗しても「勉強になった」と笑って済ませられるかもしれませんが、ITシステム導入の費用は、会社の規模が大きければ何千万円、何億円になることもあります。中小企業にとっては、笑って済ませることのできる額ではないでしょう。
また、ITシステムへの投資は、その成否がはかり難いところがあります。
経営者の皆さんにとっては当然のことでしょうが、ビジネスにおける投資の成果は、短期的に判断できないことが多いのです。
たとえば、2006年にソフトバンクの子会社が携帯電話会社第3位のボーダフォンを買収したとき、その市場競争力の弱さと高額な買収金額に対して、多くの批判が出ました。
グローバル資本であるボーダフォン・グループですらも建て直しができなかった弱小ケータイ・キャリアを、新参者のソフトバンクが経営したところでどうにかなるものではないと思われていたのです。
当時は、ちょうど携帯電話でも番号ポータビリティー制度(MNP:Mobile Number Portability)が始まろうとしていた時期で、番号を変えずにキャリアを変えることができるようになれば、ソフトバンクはNTTドコモとKDDI(au)の草刈り場になるだろうと言われていました。
実際に、当初は解約者を減らすことに一生懸命で、とても成功した買収とは言い難かったのですが、割賦販売や定額契約などで話題を集め、いつの間にか毎月の契約純増数で首位に立つことが多くなりました。2013年度には、売上高、営業利益、純利益のすべてでNTTドコモを抜いて首位となり、2015年には市場シェアでも2位となっています。
ソフトバンクの巨額投資は、結果的には成功だったのですが、最初の1年や2年では、まだ成否がはっきりしませんでした。これと同様に、ITシステムへの投資も、当初は成果が見えなくても、失敗だったとは言えないと強弁する担当者が後を絶ちません。
担当者にしてみれば、もし「失敗」であれば、自分の責任問題ですから、なかなか認めるのが難しいのです。導入当初は使いこなすことができないのは当然で、そのうち、みんながシステムに慣れてくれば、導入効果が上がると思いたいのです。
たしかに、ビジネスにおける投資の成否は、短期的には判断しづらいところがあります。
営業マンの増員やセールス・キャンペーンなど、売上増加を狙っての攻めの投資であれば、成果は数字ではっきりと表されますが、ITシステムの導入はそうではありません。どちらかといえば、総務や人事や経理などのバックヤードにおける業務効率化や、製造現場における生産管理や販売管理に効果を持つことが多いからです。
また、広告宣伝や販売促進にかけた費用は、終わった後は経費としてそのままなくなってしまいますが、ITシステムは設備投資ですから、資産として残ることになります。モノが残っている以上、システムの導入がまったくのムダであったとは、なかなか結論づけることができません。こうして、多くの企業では、十分に使いこなすことのできないシステムであっても、一応は導入成功と見なされて、そのまま使われています。
担当者が、明確に「失敗」を認めることがないために、失敗の原因が調査されることもなく、課題が明確になることもなく、新たにITシステムを導入するにあたっての対策が練られることもありません。
このようなITシステムは、ありていに言って「不良資産」です。投資金額に見合うだけの効果が上がることもなく、業務を効率化するどころか、しばしばお荷物にもなっているのですが、表立って指摘する人はどこにもいません。
しかし、わかっている人から見れば、ITシステムの成否は明白ですし、それによる損失を列挙することはさほど難しくないのです。
ITコンサルタントのコメント(2021年11月22日)
頭にある
「なぜ、使いこなすことができないITシステムを導入してしまうのか、と問われれば、その答えは、人間の性(さが)とでもなるでしょうか。」
という点は、今でも同様であることは、読者の皆さまもご理解頂けるのではないでしょうか。
中段に、「担当者にしてみれば、もし「失敗」であれば、自分の責任問題ですから、なかなか認めるのが難しいのです。」とあります。
これはIT・システムの世界に限らず、どの世界でも、いつの時代でもそうかもしれません。そして、大きな問題であると考えています。
日本のIT・システム開発の世界は内製比率が低く、外注比率が高いことは皆さまもご存知だと思います。IT・システム開発を外注した場合、もし失敗しても外注先に責任転嫁をすることができます。発注者側の担当者(場合によっては経営者)が失敗の責任を取りたくないという意識が、日本の外注比率が高い状況が続いてきた一因といえます。
このような状況では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)をキーワードとした投資など、攻めのIT・システム投資に取り組むことは難しいことに気がつく必要があります。