2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。
コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。
P.25~
第1章 ソフト更新、業務フロー変更 ── 絶え間なく見直しを迫られる社内システム
常に話題を先行させるIT業界のマーケティング
広告代理店やマスコミにお金を流して、大々的にはやらせてから「今流行のシステムです」「これからのビジネスには必須です」「御社も導入しないと取り残されますよ」などと煽るのが、IT業界の得意のやり口です。
ところが、IT業界がマスコミを使って売り出している新技術は、実際にはまだそれほど普及していないことが多いのです。常識的に考えて、売り出されたばかりの新しい技術を使っている企業が、それほど多いはずはありません。
IT企業をスポンサーに持つ『日経情報ストラテジー』や『日経BigData』が取り上げるのは、ごく少数の企業の先進的な事例だけで、ほとんどの企業は新しい技術には飛びつかず、石橋を叩いて渡るように「枯れた技術」だけを採用しています。
ここでいう「枯れた技術」とは、すでに何年も前から、多くのユーザーが実際に使っていて検証を行い、動作などに問題がないことが経験的に証明された技術のことです 。
逆に、新しい技術にはどうしても障害がつきものです。
個人的に使うiPhoneやWindowsであれば、初期バージョンや初期ロットの不具合は、人よりも早く新技術に触れられる喜びとトレードオフで、笑って済ませることができるかもしれません。
しかし、ビジネスとなればそうはいかないでしょう。ITシステムの障害は、業務を滞らせて、何千万円、何億円という損害を生み出しかねないからです。
アメリカのITコンサルティング会社であるガートナー社は、新しいIT技術が生まれてから成熟していくまでの様子を、ハイプ・サイクル(誇張曲線)と名付けました。
一般的に、ハイプ・サイクルは次の五つの段階を踏んでいきます。
- 技術Xの登場 新しい技術Xが開発されて、市場に投入されます。
発表会などのイベントが行われ、大々的にお披露目がなされます。 - 技術Xの流行 世間の注目が集まり、その技術Xに対して大きな期待がかけられます。
「Xがすべての問題を解決する」「Xこそが未来である」などと極度の興奮状態が作られることもあります。 - 技術Xへの幻滅 技術Xの導入事例が増えてくると、期待したほどの成果が得られないことがわかってきます。
成功事例も出ますが、失敗のほうが多く報道されます。期待の裏返しで「Xは使えない」「Xは動かない」などのバッシングが起きます。
メディアも次の新技術に目を向けて、Xを話題にしなくなります。 - 技術Xへの再評価 一般的には目立たなくなりますが、地道に使い続ける少数のユーザー企業によって、Xのメリットや使い方が明確になってきます。
Xに対する評価が徐々に良くなってきます。 - 技術Xの安定(もしくは衰退) 過度の期待やその裏返しによる幻滅の時期を過ぎると、技術Xへの真の評価が定まります。
本当に「使えない」ものであった場合には「時代遅れの過去の遺物」としてそのまま消えてしまいます。
そうでない場合には、広く受け入れられる「当たり前の技術(枯れた技術)」となります。
このサイクルの中で、最も注目度が高まったときに一気に売ってしまおうというのがIT業界のビジネスの定石なのです。
ITコンサルタントのコメント(2021年12月18日)
昨今は、PoCという言葉を利用して、激しい新製品・新技術の売り込みがされていると感じます。
また、製品の採用責任が企業側にあることを、以前にくらべユーザー企業に認識されつつあります。
ハイプ・サイクルのどの位置で、今後それぞれの製品がどうなっていくかWatchする必要ありませんが、ユーザー企業は、主体的に、継続的に、技術情報やシステム情報に接する部署や担当者を割り当て、業界を定期的に観察する必要があります。
また、担当には説明責任をもたせた上での、経営的な判断の情報を提示させることが必要です。
要望通りの新製品・新技術は世の中にはなかなか存在しないのですが、売り込みに振り回されない視点を養うためにも、継続的にIT・システム業界に接する体制を作ることも経営側としては大切な要素です。