2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。
コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。
P.193~
第4章
「To Beモデル」のシステム構築&改修で、業務効率・収益力を向上させる
事例3:ユーザー企業とベンダー企業のコミュニケーション・ギャップ
私どもの会社の提供するサービスは、システムの導入を前提とするものばかりではありません。むしろ、システムを入れ替えるべきかどうかわからない、あるいは、システムになんとなく不満があるのだけれども、どうしていいかわからない、といったお客様にこそ、相談してほしいと考えています。
社員数約50名で、健康食品の通信販売を行っているA社との仕事は、まさにそのようなものでした。
A社は主にネットを使って、健康食品の通信販売を行って10年になります。
インターネットを使った通信販売ですから、当然、ネット販売のシステムは欠かせません。
A社を創業した社長は、技術にはまったく明るくなかったため、同じく小さなベンチャー企業であるシステム・ベンダーB社を紹介してもらって、通信販売のシステム開発を依頼していました。
自分で何らかの開発・製造を行っているわけではないネット通販の会社にとって、仕入れと販売を司るシステムは、ビジネスの核になる工場のようなものです。社長は、そのシステム・ベンダーB社にオーダーメイドでシステムを開発してもらうと、IT関連はすべてそこに任せて頼りきるような状況でした。
そのため、A社にはITに明るい人材もなく、何かトラブルが起こるとすぐにベンダーを呼んで対処してもらっていました。
ところが、10年間に及ぶ蜜月にも影が差すときがきたようです。きっかけは、いつものようにささいなシステム・トラブルでした。
A社にとってシステムは事業の生命線ですから、ベンダーであるB社にメンテナンスを頼みます。しかし、A社が期待するようにはB社は動いてくれません。A社にはわずかな改修に感じられるのに、B社は比較的長い期間を要求し、その価格も決して安くはありません。
半日でできると言っておきながら、3日かかったこともありました。
そんなことが何度か続いて、A社の社長にはベンダーB社に対する不満と不信、そして不安が募ってきました。
もしもシステムが全面的に止まってしまうようなことがあれば、A社はビジネスを中断しなければならず、大損害を被ります。
また、昨今、インターネットでのセキュリティ問題や個人情報の漏えいが話題になっていることも気にかかっていました。
通販会社としては、お客様の個人情報は絶対に守らなければなりません。それが可能なほど自社のシステムが堅牢かどうか、技術にうといA社の社長にはわかりませんでした。
かといって、ベンダーB社の語る、調子のいい話を全面的に信用する気にもなれません。
そこでA社は、システムの安全性・事業継続性・拡張性等について、私たちの会社に第三者の視点から評価を依頼することにしたのです。もちろん、そこに至るまでには長い葛藤がありました。
まず、A社の側には、B社に対して漠然と、次のような不満がありました。
- エビデンス(証拠、裏付け)を挙げて示せるわけではないが、一般的なシステムに比べて速度が遅いような気がする。
- 保守管理費用も安くないと感じる。相場がわからないので確定的なことは言えないが不満である。
B社としても、そのような漠然としたことを言われても困ります。
エンジニアという人間は、明確に要求を突き付けられれば、ゴールが見えて動くことができるのですが「なんとなくサービスが悪い」みたいな、感情的な要望に応えるのは得意ではないのです。
とはいえ、お得意様をほうっておくわけにもいきませんから、打ち合わせを重ねてお互いの間の溝を埋めつつ、何が課題になっているのかを整理しようとしました。そこであらわになったのが、お互いの間のコミュニケーション・ギャップです。
B社も努力して問題の解決にあたっていたのですが、一つの不満が解決すると、また新たな不満がA社から突き付けられます。B社の不満もそうとう溜まっていました。
ITコンサルタントのコメント(2023年4月5日)
システム開発において、コミュニケーションにギャップが生じる原因は、当然ですがユーザー企業とベンダー企業の双方にあります。
例えば、ユーザー企業はシステム開発のスキル不足、ベンダー企業は業務の理解不足が原因で、コミュニケーションにギャップが生じることがあります。
当事例では、ユーザー企業に主な原因があります。
システムの速度に関する不満をユーザー企業が挙げていますが、非機能要件を言語化するスキルが不足していることで、「遅いような気がする」という表現になっています。
そのような表現では、ベンダー企業はどのように改修するべきか検討できません。
このようなユーザー企業のスキル不足は、要件定義を含めてベンダー企業にシステム開発の多くを任せていた、従来型のシステム開発の体制が助長していた側面もあります。
ユーザー企業が要件を曖昧に提示しても、ベンダー企業がヒアリングを重ねて要件を具体化すると、ユーザー企業の要件定義のスキル不足は顕在化しません。
現在は、ビジネスモデルの変革や業務改善に合わせて、システム開発の推進には迅速さが求められます。
従来のように全てをベンダー企業に任せることは難しくなってきています。
ベンダー企業とのコミュニケーションにギャップを起こさないためだけでなく、持続的に企業が成長できるように、IT人材を確保することをお勧めします。