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はじめに

みなさん、「pigeon」と「dove」という英語をご存じでしょうか。どちらも日本語では「鳩」なのですが、違いはというと、doveの方は「白い鳩」のことを指します。英語では2つの言葉で使い分けるのに、日本語では1つの言葉しかありません。逆もあって、日本語では「水」と「湯」で違う言葉を使いますが、英語ではどちらも「water」ですね。
このように、物理的には同じ世界に住んでいるはずなのですが、国や文化によって世界の区切り方は異なり、世界の捉え方、見え方が異なっているのです。つまり、世界の在り方とは、利用する言語、もっと拡張して言うと、「視座」、つまり立脚している環境・体系によって違っていると考えることができます。これは、フェルディナン・ド・ソシュールというスイスの言語学者が述べたことなのですが、もしご興味があれば調べてみてください。

本コラムでは、この考え方をヒントにDXについて考察をしていきます。

「視座」でDXを紐解く

DXというワードが世間に広まって結構経つので、DXとは何かといった記事は豊富にインターネット上で見つかることでしょう。当社のコラム記事などでも DX コンサルティング を始めとして多くの関連記事が存在しています。もちろん一概に言える訳ではないですが、これらを眺めてみると、DXとは下記のように「視野(スコープ)」や「視点(目的)」に注目して語られることが多いように思います。

  • DXは、デジタル化ではない
  • DXは、業務の効率化ではない
  • DXには、業務の変革が含まれる
  • DXには、ビジネスモデルの変革が含まれる
  • DXは、戦術ではなく戦略である

この考え方は、「デジタル」を手段のように捉えており、「ビジネスモデルや業務の変革を進める中で、デジタルを使うと有利な点があれば使う」という発想なので、視座はデジタルの外側にあります。

一方で、「デジタル」に視座を置いてDXを考えてみるとどうなるでしょうか。
前述したように、「視座」、つまり立脚している環境や体系によって世界の捉え方が変わるのだとすれば、「デジタル」に視座を置くことで、これまで捉えられなかった方法で世界を捉え直すことができるかもしれません。DXとは、このようなパラダイムシフト的な要素を含んでおり、「デジタル的な視座へと、視座のトランスフォーメーションをすることで世界を捉え直す行為」というように考えることができるのではないかと思います。
そして、世界の捉え方が変わるのですから、業務やビジネスの捉え方も変わる可能性が高く、自ずと変革へと繋がっていくこともあるでしょう。つまり、因果関係が逆で、上記の視野や視点に注目して語られたDXらしさは、結果のいち側面を表しているに過ぎず、変革が伴うかどうかは本質的なポイントではないという見方もできるのではないかと思います。

さて、このような考え方をしてみるといったい何が良いのでしょうか?
それは、DXは全てのビジネスにとって必要、あるいは有用な事であると素直に受け取りやすくなるのではないかと考えます。DXとは、「何やら無理やり変革を迫られるもの」ではなく、「新しいものの考え方を取り入れることで、新たな可能性を模索し、その結果、必要であれば変革が生まれることもあるもの」という方が腹落ちしやすいのではないでしょうか。また、中小企業にとっても、「変革を伴うような大きな変更は自社にはできない」と敬遠することなく、「デジタル的な視座から自社ビジネスを捉え直した青写真を描いてみて、効果的と判断出来れば、(例え変革が伴わなくとも)必要なところから取り組む」とすれば考えやすいのではないかと思います。

デジタル的な視座とは

では、デジタル的な視座はどの様に手に入れれば良いのでしょうか?
これも前述のソシュールの例をヒントにすると、要はデジタルの ”言語” を習得することが必要ということになります。つまり、デジタル世界特有の思想、特徴、技術、ツールなどに精通することです。ほんの一例ですが例えば下記などです。

  • 思想
    • WEB3.0
    • DAO
  • 特徴
    • 時間、空間、距離の超越性
    • 正確性
    • 24/365 労働可能
  • 技術
    • AI
    • VR
    • 量子コンピュータ
  • ツール
    • 市場に供給されている色々なサービス
    • 自社で開発したツール

こういったものが認識できている状態で自社のビジネスについて捉え直してみることが、デジタル的な視座に立つということです。そのためには、デジタル的な知見もさることながら、自社ビジネスにも深い知見が求められます。

またこのように考えると、DX人材を自社で育てる大切さと、その難しさがより一層際立つと思います。自社で育成することを模索しつつも、当社のような専門家をうまく利用し、デジタル的な視座で自社ビジネスを捉え直す = DXを推進していっていただけると良いと思います。

最後に

今回のコラムでは、ソシュールの考え方をヒントにDXについて考察をしてみました。「DXの定義はこうである!」ということを言いたい訳では決してなく、なかなか捉えにくいDX、ややもするとなかなか自分ごとにできないDXについて、このように考えることで全ての人にとって自分事にしやすくなるのではないかと思い、論述してみました。ご参考になれば幸いです。

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2023年04月24日 (月)

青山システムコンサルティング株式会社

宿谷大志