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先日、急ぎの事情でタクシーを利用しましたが、そこで少し残念な思いをしました。
そのタクシーは、青信号で止まり、極端にのんびりと運転し、降車地点でもメーターが上がるまで中々止めてもらえず、急ぎで乗車したにも係わらず結果的に移動時間も長く乗車賃も普段より多く支払うことになりました。
(良心的なドライバーがほとんどでこれは例外的な事例です。)

さて、このドライバーはなぜこのような運転をしたのでしょうか?

それは、正確な運転より、長時間乗車して貰う方が高い報酬を得られるからです。(と、推察します。)
この仕組みはシステム業界にも似ている点があります。


生産性改善を阻害する要因

システム開発は開発者の稼働工数(稼働日数や稼働時間等)により算出することがほとんどです。難しいシステムほど開発に時間を要すため稼働工数が増え、発注側もより高額な開発費を支払います。一見すると妥当な仕組みです。

では、生産性に差がある二社が、同じ品質の成果物を作成すると仮定した場合はどうでしょうか。

生産性が高く短期の稼働日数で開発できる企業と、生産性が低く長期の稼働日数で開発する企業では、生産性が低い企業の方が開発費も高額で高い収入を得ることができます。
一方で、発注側は“コストを抑える目的”で高い生産性を望みます。「安くて早い」対「高くて遅い」であれば、「安くて早い」を望むことは当然です。
この仕組みがシステム業界のジレンマです。そして、このジレンマが積極的な生産性改善を阻害する要因の1つになっていると考えます。

発注者:生産性が上がれば工期も短く支出も減る。
開発者:生産性を上げるほど収入が減る。

本来、同じ品質の成果物であれば、より高い報酬を得るべきはどちらでしょうか。短期で開発できる企業=生産性の高い企業が高い報酬を得るべきとの考え方もあるのではないでしょうか。
「安くて早い」対「高くて遅い」ではなく、「早いから高い」対「遅いから安い」です。

このような状況下で、システム開発企業はどこまで本気で生産性の改善に取り組めるでしょうか?生産性を改善するほど収入が減ってしまっては本末転倒となりかねません。

品質へのインセンティブ(品質に対する投資の考え方)は旧来より随分と浸透し定着してきました。しかし、生産性へのインセンティブについてはまだ理解が進んでいないように感じます。
生産性に対する考え方が変われば、生産性改善への取り組み方も大きく変わるはずです。


生産性改善の対策

では、具体的にどのような対策が考えられるでしょうか。

まず、準委任契約の場合、やはり単価に反映させざる得ないと考えます。生産性を含めて“質”を評価し、質に見合った単価に見直す。同じ企業だからと機械的に同じ単価では、積極的な改善の促進とはなりません。

請負契約の場合、従来の見積方式ではジレンマを解消できません。例えば、某テーマパークでは乗り物に早く乗れるチケットが別に販売されており、生産性のインセンティブを実現しています。システム開発では早い・遅いが曖昧なので、まずは生産性を判断するためのなんらかの基準となる工数が必要になると考えます。基準の工数をどうするか、今後の課題ですね。

また、生産性改善には発注者側の責任も大きいことを付け加えておきます。例えば要件定義では、要件を正確に漏れなく伝えることができるかどうかも生産性に大きく影響します。開発の遅延責任を全て開発者に押し付けることがあっては生産性改善を促進できません。

「開発見積の工数が過剰な気がする」「入札時は安価だったが改修が高額だ」こんな相談を多々いただきますが、これらもこのシステム業界の仕組みが少なからず影響しています。現在の仕組みではこれらの不安も当然です。特にシステムは導入後に担当企業を変更することが難しく、提示された工数の妥当性を判断することも難しいため尚更です。

近年、IT人材の不足が度々話題になりますが、生産性の改善がIT人材不足対策の一手となる可能性もあります。
また、「生産性へのインセンティブ」は企業の稼働時間をも変えることができるかもしれません。「労働時間は他社の半分!給与は同じ水準!」そんな企業も理論上は可能ですし、実現できるかもしれません。

似た仕組みの業界はシステムやタクシーだけではないはずです。
皆様の業界はいかがでしょうか?

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2018年12月18日 (火)

青山システムコンサルティング株式会社

吉田勝晃