【連載1】DXの第一ステップはデジタイゼーション

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本稿は、月刊ビジネスサミット(2021年10月号~2022年3月号)に「中小企業のDX入門」(寄稿:ASC長谷川智紀)という連載企画で掲載された記事を再編加工したものです。

DXが進まない中小企業の現状

2018年9月に経済産業省がDX(デジタルトランスフォーメーション)レポートを発表して以来、様々なニュースや記事でDXが取り上げられている。だが、それらを読むと語る人によってDXの意味が少しずつ異なるため、DXとは何をすべきことなのかわからないと感じている人も多い。

では、「わからないから手を付けない」という判断をして良いかと言えば、それはノーである。しかしながら、そのような判断をしている経営者も実に多い。

2020年12月に前述のDXレポートに対する中間報告としてDXレポート2が発表されたが、その中で「95%の企業がまったく取り組んでいないか、取り組み始めた段階」とある。これも、DX推進指標自己判断結果を経済産業省に提出している意識が高い企業における割合であり、診断結果を提出していない企業を含めれば、少なくとも95%以上の企業がDXに取り組んでいない状況だと推察される。

DXの必要性とステップ

なぜDXに取り組まなければならないのか。他の多くの記事でも語り尽くされているところではあるが、一言でまとめるなら「競争優位性を確立することにより、倒産しないため」である。

DXが語る人によって意味が異なるのは、段階的に取り組む最初のステップとなる「単なるデジタル化」が含まれているためである。もちろん、デジタル化を含まないDXは存在しないのも事実であるが、それだけでDXと呼んでしまうと誤解を生む。単なるデジタル化からDXに至るには、次の3ステップがある。今回は社内の状態がどう変化するのか、という観点でステップを説明するので、自社の状況をイメージしながら読んでほしい。

第一のステップが、「デジタイゼーション」である。これはアナログをデジタルに置き換えることであり、いわゆる単なるデジタル化に相当する。具体的には、各担当者のレベルで単一のシステムを用いて業務をデジタル化した状態である。

第二のステップが「デジタライゼーション」であり、ビジネスプロセスにまで踏み込んだデジタル化を指す。このステップでは、縦割り組織の業務プロセスをデジタル化してシステム間のデータ連携ができている状態から、全社の業務プロセスが横断的にデジタル化されていて統合されたデータを分析できる状態まで細分化できる。

第三のステップが、人や組織のレベルで変革が実現できた「デジタルトランスフォーメーション」である。この段階までくると、デジタルが社内の文化として根付き、デジタルを前提にした仕組みや組織が社内に生まれてくる。最初のデジタイゼーションまでの段階でも、業務の効率化などの効果が期待できるが、DXの段階に辿り着くことで、ようやく競争優位性を獲得することができる。

DXを推進するために

最短ルートでDXを実現させるためには、自社の「ありたい姿」(WillBeモデル®)を描き、それを支える全体的な戦略およびビジョンの構想が必要となる。しかしながら、デジタルに明るくない経営者にとって、デジタル活用を前提にしたビジョンを構想することは難しい。さらに、中小企業であれば、その経営者をサポートするIT人材も不足している。

上記のような企業がいきなりDXを進めようとするとどうなるのか。まずは、基幹システムの導入などで既に取引のあるベンダーなどから提案を受けるだろう。誠意のあるベンダーは自社ができることを頑張って説明してくれるはずだが、提案を受ける側にDXで実現したいことのビジョンが無ければ、それが自社にとって価値のある提案なのか、判断することができない。結果として、ベンダーに丸投げをしたり、ベンダーの言いなりになったりしてしまう。このように進めたDXがうまくいかないのは想像に難くない。

では、どうすれば良いのか。端的な答えは経営者がデジタルの理解を深めることである。そして、その近道は、デジタル導入を経営者自身で試してみることである。幸いにも、最近のデジタルサービスは、簡単に始められて、簡単に止められるものが少なくない。これらをいくつか用いて、社内の部分的なデジタル化を経験することで、全体を構想する視野を広げることができる。

DXの入り口に立つ

全体を構想してからDXを進められる企業は、それに越したことはない。しかし、全体が構想できないからといって、デジタル化に対して足踏みをしてしまうと、早晩事業が立ち行かなくなってしまう。本連載では、そういった企業に向けて、「できそうな部分」を取り上げ、そこから着手してもらうことを志向している。

DXを本格的に進めるためには、経営者だけではなく、自社内で推進する担当者および体制が必要となる。最初から社内に適切な人材がいれば申し分ないが、いないのであれば今から育てていけばいい。「できそうな部分」を経営者と一緒に推進する中で、必ず成長することができる。

コロナ禍における対応のために、デジタル化に取り組まざるを得なかった企業も多いと思うが、そのデジタル化を一時的な対応にせず、今後の事業成長のために、継続的に進めていってほしい。

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2022年04月27日 (水)