【連載4】従業員の安全・健康管理のデジタル化

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本稿は、月刊ビジネスサミット(2021年10月号~2022年3月号)に「中小企業のDX入門」(寄稿:ASC長谷川智紀)という連載企画で掲載された記事を再編加工したものです。

従業員の安全・健康管理に関する課題

労働安全衛生法の遵守は会社の義務であるが、より高いレベルで従業員の健康を管理することによって、生産性向上などのメリットが得られる。

ところが、コロナ禍において、対面で仕事をする機会が減ったことにより、顔色や声色などから従業員のコンディションを感じ取ることが難しくなってしまった。リモート会議システムで頻繁にコミュニケーションを取っていても、やはり対面に比べると情報量が少ない。

その一方で、デジタル化が進み、単純労働がITやロボットに置き換わっていくと、私たち人間が働くことの価値は相対的に高くなる。つまり、従業員が健康を損なうことで発生する影響も増大することになる。大企業では「健康経営」が浸透しているが、中小企業では従業員の健康にする意識がまだまだ低
いところが多い。しかし、今後も同じ意識でいると、足元をすくわれてしまうだろう。

環境改善につながる安全・健康管理のデジタル化

活動量計

活動量計(アクティビティ・トラッカー)による健康管理は、わかりやすいデジタル化かもしれない。活動量計で最も主流の形状は、リストバンド型(腕時計型)である。スマートウォッチの中には、心拍数が計測できるものもあるため、デジタル製品に対してあまり興味のない人でもイメージしやすいだろう。

例えば、これを現場の作業員に着用してもらうと、熱中症の危険度合いが高まったときに、アラーム音で本人に通知できる。作業員が早い段階で熱中症を自覚し、適切な休憩をとることによって、大きな事故につながることを防ぐことができるのだ。また、作業員の落下や転倒を検知し、必要に応じて緊急通
報サービスに連絡することもできるため、発見が遅れて二次災害が起きるといったリスクを未然に防ぐ、あるいは低減することが可能になる。

ほかにも、活動量計を睡眠時に着用してもらうことで、睡眠改善プログラムを提供するサービスもある。従業員の睡眠にまで会社が介入することに疑問をもつ人もいるだろう。では、どういった会社で導入されているかというと、わかりやすいのは夜間工事を請け負う業者や24時間営業の飲食店などである。深夜も働かなければならない環境であれば、睡眠の乱れは本人だけの責任とは言い難い。それに
より、従業員の安全性やサービスの質に悪影響があるのであれば、会社として従業員の睡眠を改善したいと考えるのは当然のことだろう。

実際に、労災事故防止対策として効果が出ている事例もある。もちろん、従業員の満足度向上や生産性向上を目的として取り入れている会社も多い。

パルスサーベイ

どの会社でも導入を検討すべきサービスとしては、パルスサーベイ(パルス調査ツール)がある。パルスサーベイとは、従業員に数問程度の質問を、短期間に繰り返し実施する調査手法のことで、おもに会社と従業員の関係性の健全度合いを測り、従業員の不調や異常を早期発見するために用いられる。

この手法で高い精度を得るためのポイントは「短期間に繰り返し実施する」こと。高頻度で実施することで、従業員の直近の状態が把握できるのだ。アナログでの実施は、回答する従業員にも分析する従業員にも膨大な工数が必要になってしまう。裏を返せば、デジタルだから実現できている手法である
とも言える。

最も導入しやすいのは、ストレスチェックだろう。労働安全衛生法に定められている年次のストレスチェック(従業員数50名未満の事業所は努力義務)では、小さな不調を見落としてしまったり、ケアまでの期間が長くなってしまったりするリスクがある。そこでパルスサーベイを用いることにより、従業員のメンタルヘルスを健全に保ち、働き続けられる環境の実現へと近づくこともできる。

導入時における留意点

はじめに述べたように、従業員の安全・健康管理は効果を実感しにくい分野である。そもそも、何を効果と定義するべきなのかも難しい。短期的な費用対効果を追いかければ、先送りになる分野だろう。しかし、厚生労働省の調査によると、健康経営度調査の評価結果と株価には相関があり、中長期的には効果が期待できる。

本質的ではないかもしれないが、健康経営を推進することで、経済産業省から「健康経営優良法人」に認定されると受けられるインセンティブ措置もある。「健康経営優良法人」は大規模法人部門の上位500とは別に中小規模法人部門の上位500が認定されるので、ひとつの指標として取り組んでみてもいい。

また、高いコストをかければ、より安全な環境が実現できるだろう。例えば、スマートグラスを用いてAR(拡張現実)で注意喚起を行ったり、重機の自動化により人間を危険な現場から遠ざけたりすることができる。だが、各種サービスのコストが相対的に年々下がってきているとはいえ、まだまだ絶対値として高価であることは否めない。まずは低コストでできるところから着手し、徐々に拡充していくことを勧めたい。

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2022年07月29日 (金)