【連載6】真のDXに向けて

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本稿は、月刊ビジネスサミット(2021年10月号~2022年3月号)に「中小企業のDX入門」(寄稿:ASC長谷川智紀)という連載企画で掲載された記事を再編加工したものです。

既存システムとの向き合い方

ゼロから事業を立ち上げるベンチャー企業以外には、デジタルであれアナログであれ何らかのシステムが存在する。この既存システムをどうするのかは、ビジョンの実現を基準に評価しなければ解決できない問題である。

ベンダーに依頼をすれば、多くの場合、システムの刷新を提案されるだろう。もちろん、それが妥当なこともあるが、決してやみくもに刷新する必要はない。刷新するとしても、着手するのは先送りでいいかもしれない。

まずやるべきは、必要だと思われるシステムおよびデータがすべて連携できるグランドデザインを描くことである。もちろん、部分的なデジタル化として導入したシステムも、必要に応じてグランドデザインに組込むべきである。

仮にデータの連携が手動であったとしても、業務に支障がなければ、当面はそのままで構わない。改善効果が高い部分から順に構築していけばいい。こうした業務への影響をベースに評価しながら、既存システムをどうするのかを決めていく。

なお、グランドデザインは世の中の変化に合わせて見直すのが望ましい。導入してからある程度の期間が経過したシステムは、その都度、ビジョンの実現を基準に評価されるべきだろう。

デジタル化したシステムの機能は、重複しないほうがコストを抑えることができる。したがって、柔軟にシステムの入替ができるように、各機能の組み合わせがゆるやかなグランドデザインを描いておきたい。ここで、部分的なデジタル化の経験が活きてくる。デジタル化で実現できることとできないことの
勘所が見えてくるはずだ。

社内IT人材の育成とベンダーとの付き合い方

ビジョンを適切に更新し続けることは経営者の仕事だが、システムの細かい部分は、社内で育てたIT人材に任せていきたい。経営者と二人三脚もしくはチームで、部分的なデジタル化から一緒に推進してきていれば、当初とは比較にならないほどに、社内のIT人材は成長しているだろう。また、経営者の
ビジョンを理解し、グランドデザインを描ける人材がいれば、より一層頼りになるに違いない。

IT人材の成長度合いは、ケースによって異なるが、間違いなく言えるのは、他社の人材に依存してはならないということである。今後の会社にとっても大事な成長機会は、自社の従業員に与えてあげてほしい。

一方で、クライアントのことを本気で考え、親身になってくれるベンダーもたくさんいる。しかしそれでも、ベンダーにはベンダーのビジネスや都合が存在する。ベンダーの提案が自社のビジョンやグランドデザインにマッチするかどうかは、自分たちで評価するしかない。そのため、社内IT人材には、継続的に情報を収集し、ベンダーよりも広い視野で学び続ける姿勢が求められる。

もっと言うと、社内IT人材の役割はベンダーとの橋渡しではない。ベンダーを適切にコントロールし、評価と管理をする必要がある。社内IT人材が旗を振り、適切な距離感でベンダーと協力関係を築けることが、真のDXを実現する推進力になるのだ。

最後に

6回にわたり、部分的なデジタル化の導入からDXにつなげる流れを説明してきた。すべてを一気に実現しようとすると大変だと思われるかもしれないが、一つずつ着実に積み上げていけば、必ず達成できるということが伝わっただろうか。

改めて部分的なデジタル化を振り返ると、デジタル製品やサービスを導入しただけでは達成できるものが一つもないことに気づかされるかもしれない。最初に取り上げたオンライン会議システムも、どの会議をオンラインで実施するかを決めなければ、社内に浸透させることができない。

いずれのデジタル化も、自社にとって効果的な活用方法はどんなものか、という自問を繰り返す必要がある。そのような課題に取り組んできた従業員がいればよいが、いなければ経営者がその答えを指し示していかなければならない。

繰り返しになるが、経営者が不在のデジタル化およびDXは進まない。とはいえ、毎日のように即日解決を求められる問題と向き合っている経営者にとって、デジタル化およびDXのように解決までに時間とコストがかかる課題は億劫なものであり、ましてや経営危機が目前に迫っていなければ、先延ばしに
したくもなるだろう。経営者自身がデジタルに苦手意識を持っていれば、なおのことである。

しかし、ある日突然、経営危機に直面する可能性もあるのだ。コロナ禍における飲食店を例に挙げると、オンライン注文による配達サービスを迅速に利用できたのは、元々キャッシュレス決済に対応していた店舗である。

想定できないことが起きる世の中だからこそ、少しずつでも着実にデジタル化を進めておきたい。そして、決して部分的なデジタル化で満足することなく、真のDXが実現されることを願っている。

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2022年09月26日 (月)