病院移設体験記(新病院建設へのシステムコンサルタントの関わり方) | 青山システムコンサルティング株式会社

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私の得意分野は医療情報システムですが、ここ数年病院の移設や増築のプロ
ジェクトに企画フェーズから関わる仕事が多くなりました。その経験を
短い物語風に紹介します。

病院を移設するからシステムの移設・構築を手伝ってほしいと知人からの仕
事の依頼があり、現状を確認するためにお客様に訪問したところ・・・

明らかに耐震基準に満たないと思われるレトロな建物。院内に入り外来を
グルっと周り、お見舞いのフリをして一つだけの病棟を一回り。ついでに放射
線科や検査科も受付の窓口から中をちょっと拝見。
一見、IT化されている様子がほとんどなく、これはどうしたものかと不安が
渦巻く。病院の職員と面談したところ、主要な部門はきちんとIT化されてい
るとのことでほっと一安心。しかし、給食・放射線・検査・手術・内視鏡など
の部門システムと電子カルテは必要な連携がされておらず。よくよく聞いてみ
ると、病院向けのシステムではなく、入院請求できるよう追加開発した診療所
向けの電子カルテ・保険請求一体型のソフトを導入していたのです。

提供できるサービスを説明したところ、新病院稼働まで面倒を見てもらいた
いとトントン拍子でお仕事をいただくことになった。長くなりそうだと感じて
いたが、結局3年以上のお付き合いすることになった。

当初は企画フェーズ。手始めに各部署に形式的にヒアリングし、訪問の度に
用事もないのに各部署に顔を出して本音を引き出すことに注力。院長が考えて
いる新病院のコンセプトや建築設計会社が作成した図面と照らし合わせつつ、
収集した本音を勘案し、どのようなシステムをどのようにくみ上げていくか検
討した。結局、現病院で電子カルテシステム・フルオーダシステム・看護支援
システム・医事システムをシンプルな状態で稼働させて、新病院に移設するこ
とした。業者選定しシステムの稼働まで15か月程度でこぎつけた。

また、同時期に新病院の基本設計にも参画する。まだ確定していない図面に端
末やネットワーク機器をプロットするためにA1サイズの図面と格闘した。再
来受付機・患者呼び込み表示、会計番号表示、お薬引き換え番号表示、無線
LAN。同じ弱電ということで、なぜか内線電話まで。図面が変わるたびに何度
もLAN口・電話線口をプロット。OAフロア範囲やOAフロアの形式、無停電電
源コンセントの設置場所、EPS(electric pipe shaft:電気系統の縦配管が集
まったエリア)内の配置設計にも巻き込まれた。サーバールームは最終的にど
のようになるかわからないので、やや広めにとり、適当に消費電力や配置を決
めてしまった。院内PHSやナースコールPHSに関することも検討した。

設計業者がリードしてくれた基本設計も無事終わり、施工業者の入札も終わ
った段階で、分厚い最終設計図面を見せてもらう。案の定コンピュータナース
コールが入っている。
どの病院でも電子カルテとの接続費用やPBXとの接続費用を建築費用に入れず
に概算費用を算出して入札してしまう。トラブルの芽を摘むため、どこまで
建築費用で考慮しているかを建設の電気施工会社・設計会社・病院の新病院設
計担当者に確認したところ、やはり抜けていた。さっそく追加費用見込みと院
長・事務長に伝える。
また、いつも通り、ナースコールのメーカーで看護部門と一悶着。
ほとんどの病院でコンピュータナースコールのメーカーをどこにするか、
施工業者決定後にモメている。看護部門が基本設計時に本気で業者を比較しない
ことがそもそもの原因なのだが。

数ヶ月の基礎工事が終わり、建物が姿を現しだす。ここからは早い。
あっという間に新病院ができていく。床下配管の修正ができなくなり、対応し
ようとして無理をお願いして壁のLAN口の場所を変える。近くに電源コンセン
トを付ける指示を忘れて不思議な配線になってしまったということがないよう
直前まで電気施工会社と図面の修正をする。
一方、病院の一般職員は夢物語だった新病院が建っていくことを目の当たりに
して、やっといろいろなことを真剣に考え始めるが、すでに手遅れ。その手遅
れをカバーするために什器の配置変更やPC・電話の位置変更をする。そのた
め、強電・弱電の末端の配線図面は微修正どころか結局ほぼ作り直しになる。
電気施工担当の会社はどの案件でもいつも大変そうだなと横目でみつつ、新病
院でどこまでシステムを稼働させるか本格的に検討を開始した。

今回は、外来患者のために診察室呼込表示システム・会計番号表示システム
などを導入することした。基本設計時にデジタルサイネージを含めていたのだ
が、実施設計時に議論を進めていくと病院が求める機能と設計会社から提案さ
れた内容がミスマッチになっていたため、デジタルサイネージの用途を呼込表
示や会計番号表示に切り替えた。また、入院患者の徘徊の監視強化をしたいた
め、顔認証による徘徊検知システムの導入を決定した。

いよいよ引き渡し日も最終決定し、オープン日も決まった。
引き渡しからオープンまで2週間で十分という殺人的な意見を抑え込み、引き
渡しからオープンまで一ヶ月半の準備期間を確保した。その間にLANの末端処
理やネットワークの整備、新医療機器の搬入などを行った。また、病院移転コ
ンサルタントの指導の下、複数回の引越リハーサルや運用リハーサルを行った。
今回はリハーサルのため環境作りや引越の段取りをよくするため、旧病院と新
病院をVPNでつなぎ、オープン前にサーバを新病院に移設しリハーサルも実サ
ーバで行った。

そして、無事に新病院がオープンした。多少の運用の混乱はあったものの、
初日の夕方には落ち着いていた。いろいろな会社のSEが朝から稼働立ち合い
し、私はなにもできず邪魔になってしまうので、初日の立ち合いはいつも夕方
からとしている。今回も夕方から顔を出し、大きな問題がないことを確認して
ホッとする。

最後に反省会。といっても反省はしない。多くの病院職員は、病院移転
という大仕事を人生で1、2回しか経験できないため、反省しても次に生かせ
ない。
私は、「システムはすでに稼働から複数年たっているため数年以内にはまた投資
をしないといけない」と院長や事務長にアドバイスをした。楽しい反省会とい
う飲み会の場をちょっとだけ盛り下げることで、新病院移転プロジェクトのシ
ステムコンサルタントの私の仕事は完了した。

簡単に紹介しました。データセンターの移転やオフィスの移転など組織の
部分的な引越は世の中に溢れていますが、組織全体の一斉引っ越しはなかなか
ありません。業務とシステムと設備の知識が必要になり、高度なノウハウが必
要な仕事です。詳細を十分に紹介しきれていませんが、少しでも皆様の参考に
なれば幸いです。

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2017年04月10日 (月)

青山システムコンサルティング株式会社

嶋田秀光